ブロックチェーンのネガティブな側面は？

　ブロックチェーンは非常に強力で便利であるが、使う用途によっては課題や問題点も多い。

　まずテクニカルな問題として、ネットワークに参加するノードすべてに取引情報が正しいかコンセンサスをとりながら処理するため、即時決済ができない。取引が確定・承認されるまでは一定の時間がかかる。ビットコインもそうである。

　政府に関する問題として、世界中で仮想通貨規制の枠組みが進んでおり、ほとんどの先進国では法律が発動している。ビットコイン等の仮想通貨は、匿名で、誰がどれだけの資産を持っているか把握することが困難だ。そのため、資産隠しやマネーロンダリング（資金洗浄）に使われてしまっているし、犯罪に関係するダークマーケットにおいても、その支払い手段に充てられることもしばしばある。

　シドニー大学の研究レポートによれば、ビットコインの総額25％、および、取引総額の４１％が非合法な取引による団体や活動の支払い等に充てられているとのこと。その総額にして720億ドルにもなるとのこと。

　近年世界中を騒がせたサイバー攻撃WannaCryというランサムウェア（端末のデータを暗号ロックして、身代金を要求する犯罪ソフトウェア）においても、その身代金の支払い方法はビットコインが指定されていて、世界で60億ドルもの損失を出したという。ビットコインは、闇社会にとっても、革命的な発明だった。

　仮想通貨が発明された以上、その流れは止まらない。政府らは「問題の対処」にすでに注力している。

　アメリカではかつての大統領選において、トランプ大統領が勝利した際に多くのフェイクニュースなどサイバー攻撃をロシアから受けていたとされるが、ロシア政府がこれをハッカーコミュニティ等に行わせるためにビットコインで支払いを行っていたことを突き止め、ロシア系のエージェント数人を逮捕に踏み切ったと報じた。

　これは、アメリカ政府からの「仮想通貨で取引しても、我々はトレース可能だ」というアピールにも見える。ロシアは政府自身がビットコイン等のマイニングセンターを持っており、稼ぎながら、さまざまな活動に使う狙いがあるのかもしれない。アメリカもその動きは注視しているということだ。

　日本でも、仮想通貨取引所がサイバー攻撃に襲われた際に有志の開発者たちが、その盗まれた仮想通貨のありかの追跡を行うことに成功している。

　このようにさまざまな対抗策が取られているのが現状であるが、ブロックチェーンを使うことで国家や社会にどのような影響を与えてしまうのか、事前の慎重な検討が必要なテクノロジーといえる。



●ブロックチェーンの市場やトレンドは？ハイプサイクルは幻滅期


ハイプサイクルトレンドでのブロックチェーンの位置

ブロックチェーンはトレンドのタイミングとしてどのあたりに位置しているのか。ガートナーの2018年のハイプサイクルが出ているので見てみる。


　これによると、ブロックチェーンは期待のピークの山をすぎて降下、幻滅期に入っていることが分かる。その先を走るのは自動運転レベル４やAR/VR/MRがあり、その後ろには、バーチャルアシスタントやIoTプラットフォームなどの新興技術が並ぶ。

　製品やエンタープライズ、社会的なニーズを満たす、安定したサービスとして扱うにはまだ不完全な部分が多く、しばらくは開発投資が必要だろうというところだ。なお、ブロックチェーンの普及に至るタイミングとしてよく上がってくる年は2025年であるというのが専らの予測だ。今は水面下の開発の時期なのだ。



ブロックチェーンの市場はどのように推移する？

　市場予測をIDCの資料から見てみる。IDCではブロックチェーン関連の支出（ビットコイン等の仮想通貨取引額は除く）に関してデータを発表している。これによると、2018年には2017年の2倍の15億ドルにまで膨らむ見込みで、今後も、平均80％以上のハイペースで伸びると予測、2022年には117億ドルに達するとのこと。そのリードの手綱を握っているのは、やはり米国で、次にEUだ。中国でさえも、この分野は政府が規制を厳しくしており、まだキャッチアップのポジションにいる。

　業界別で見ると、金融分野を筆頭に、流通サービス分野、製造、資源エネルギーに関する分野が相次いでサービス開発投資に支出を増やしていくであろうとのことも説明されていた。主なユースケースとしては、国際送金、貿易金融、ロット管理や製品や材料のトレーサビリティなどだ。業種、サービス以外でも、プラットフォームサービス、セキュリティソフトとしての分野が今後成長著しいものになると、予測している。

●ブロックチェーンのビジネス活用事例

　ブロックチェーンの強みを生かした分野への適用可能性が広がっている。今回は従来の仮想通貨、国際送金、トレーサビリティ、食の安全以外でのビジネス上の利活用可能性について触れる。

保険業界におけるブロックチェーン

　ブロックチェーンは保険業界において大きな貢献をもたらしうると信じられている。保険とは契約情報と履歴情報、クレーム情報などを収集、統合して、決済に充てるものだからだ。

　保険クレームや変更などの自動処理をブロックチェーンで可能にできるポテンシャルがある。しかも安全に、個人のプライバシーに対しても高いセキュリティを保ったままだ。

　ブロックチェーンを使えば支払い、保険の開始と管理、リスクの変更、マイクロ保険にも対応することができ、作物保険のような、詳細なものまで適用できる期待がある。作物が指定されれば作物をマップで特定してその地域の天候データなどからリスクを計算することも可能だ。これらによって、ヒューマンエラーもなくしつつ、素早くストレスのない手続きが実行できる可能性がある。

　また、新たなビジネスモデルも検討され始めている。ブロックチェーンを使った個人間、家族間におけるPeer to Peer 保険だ。少人数、家族単位の共済のようなイメージだ。ブロックチェーンによってセキュアに、自動的に処理を行うことが可能だ。

ヘルスケアにおけるブロックチェーン

　ブロックチェーンは病院、クリニック、個人、家族などの健康や医療に関する関係者に対して情報を共有し、連携し、記載することができる。これは医療カルテの記録だけにとどまらず検査記録や、個人のヘルスケアデータをウェアラブルデバイスやその他のIoT機器で自動的に収集し、健康をモニタリングすることも含むことができる。MedRecなどのスタートアップがそのような仕組みをブロックチェーンで提供している。

　そして、将来的にはそれらの共有された情報を用いてなんらかの分析を行うことも可能になるであろう。

メディア・ジャーナリズムでのブロックチェーン

　ブロックチェーン、スマートコントラクト上に、ニュースメディアの情報記事を執筆し、それを販売購読するようなネットワークもブロックチェーンで可能である。ジャーナリズムのブロックチェーンとして、個人で執筆した記事や現地の写真などが取引されるようになることもある。そうすれば個人とメディアとのWin-Winの関係も構築できるだろう。

　米Nasdaqは、New York Interactive Advertising Exchangeという会社とパートナーを組んで、ブロックチェーンを用いて広告マーケットプレイスを開発している。どこでどのようなブランドの広告をパブリッシュするか、いくら支払うかなどをブロックチェーン上でやり取りし、自動決済を行う仕組みだ。

　また、ブロックチェーンが仮想通貨の次に政府や社会に対して大きな影響をもたらしかねない破壊力が向けられそうなのがメディアであると考える。

　インターネットの世界では著作権の侵害や、名誉毀損（きそん）など国の法律に違反しているものが掲載されていた場合、これを国やインターネットプロバイダーなどの手によって削除などの管理が公共の福祉のため行われることがある。海外では国の安全を脅かすような事実や決起集会などが行われそうな場合に、インターネットを遮断するようなことも起きている。しかし、ブロックチェーン上に記載した情報は、第三者によって改ざんや削除ができず、残り続けることができてしまう。

　たとえば中国では、インターネット上の情報統制や検閲が多く行われているが、そういった政府などにとって不都合なニュースも、ブロックチェーンの派生形である、スマートコントラクトなどによって情報が記載され、国内でシェア、流布されてしまった場合、その情報の管理を政府が徹底することは難しい。

　政府にできるのは入り口をふさぎ、そのようなアプリケーションをすべて禁止するか、そのような行為があっても、誰が行ったのかをトレースできるような技術を整えていかなくてはならないだろう。

　かようなケースは政府や社会に反することもあり、ビジネスにはなりにくいが、政府としては来るかもしれない脅威に対して留意すべき要素である。

IoT/AIのプラットフォームとしてのブロックチェーン

　ブロックチェーンの素晴らしいところは、取引情報記録をプライバシーに配慮しながら全員が共有できることだ。さまざまなサービスを世界中に提供しながら、その履歴データがプライバシーを保ったまま共有することができるので、ビッグデータを多くの人たちに共有することができる。

　そこからさまざまな関連アプリケーションが提供できるよう、APIを用意することができれば、新たな非中央集権的なビッグデータプラットフォーム・エコシステムの誕生だ。

　アプローチとして、企業が個々に持つIoTデータや業務データを共有しあい、金銭で取引するようなデータバンクのような考え方もあるが、なかなかメジャーになりきれない。有力なプラットフォームが出てこないのに加え、データをわざわざ提供するインセンティブが少なく、そもそも提供したところで、そのデータを誰が、どう使えるか、有益なのかは分からないからだ。汎用すぎるプラットフォームよりは、まずは業種や業務に特化したセグメントで始めたほうが用途、データの要件なども具体的に絞られてくるはずだ。結局は的を絞っていくことが重要だ。

　なお、まだAI/IoT活用といった領域にまでは到達できていないが、富士通が今年の5月に開始した「Virtuora DX」では、異なる企業のもつIoTデータ、業務データの需給をマッチングするプラットフォームサービスを開始している。

音楽著作権管理におけるブロックチェーン

　音楽の著作権を誰が持っているかは非常に証明しにくいし、許諾をして、金銭を得るなどの仕組みを作るのが個人アーティストでは困難で、日本音楽著作権協会（JASRAC）などの著作権団体がまとめて管理してサービス体系を作り、ビジネスを行っている。

　しかし、その事業透明性も外からは見えないので正しくデータが管理され、支払われているのかは疑問が上がっている。

　ブロックチェーンはそうした中央集権管理からデータを透明にして開放してくれる期待がある。非中央集権で、音楽の利用希望者がブロックチェーン上で申請をすれば、自動的に決済される仕組みとなる。一方、すべての権利者や収入が丸裸でも困ってしまう。実装にはプライバシーに配慮した設計が必要だろう。

スマートシティにおけるブロックチェーン

　スマートシティの定義は世界の都市課題によってさまざまだが、先進的なスマートシティのモデルの一つとして、都市にあるデータ（街灯やゴミ箱、監視カメラ、Wi-Fi通信、環境、公共サービスなど）をセンシングして、データ管理し、それらのデータを収集して都市の管理やセキュリティ、サービスの充実のために利用できるという考え方があり、カナダのトロントや、中国の大都市でもアリババなどが実験を行っている。ブロックチェーンを使うことでさまざまなモノからセンシングデータを収集、分析できるとともに、決済も可能になる。

　台北では、ブロックチェーン企業のIOTAの技術支援の下で、ライトや温度、湿度、汚染に関するデータを検知して収集する取り組みを行っている。

カーボンオフセットにおけるブロックチェーン

　中国において産業発展と環境における二酸化炭素排出の管理問題は重要である。

　IBMは2017年にエナジーブロックチェーンラボと共に、中国にブロックチェーン技術を用いた追跡システムを構築。これによって、二酸化炭素の排出権を会社同士がマーケットとしてリアルタイムに取引しあうことができるようになった。



　ここで紹介したほかにも分散型のコンピューティングサービスやID認証、寄付用途に使うなど、ブロックチェーン分野では関連スタートアップが多く生まれ、その検証や企業との提携が進んできている。ようやくブロックチェーンでなくては解決できない問題も見え始めたところだ。

　ハイプサイクル上で示されている2025年の普及期に向けて、日本でもあらゆる業種が関心を向け、優れたスタートアップに投資し、いち早くその魅力を取り込んで製品、サービス化につながっていくことが世界に取り残されていかないためにも重要だ。